ざざ…ん、ざ…ざぁ…ん

船は、滑るように凪いだ海上を進んでいく。

天気は良くとも、海の上は寒い。

お世辞にも、大きくて立派とは言えない、小型バス程のこじんまりとした船の上で波に揺られながら、シルヴァは小さく震えた。

気分は、すこぶる悪い。

あの後、イヴァのグリフィンは、丸焦げになったガーディアナに引き返そうとするシルヴァの命令には全く従わず、

むしろシルヴァが逃げ出したりしないように、空へと飛び立った。

本当に唖然とすると、人は泣くことすら忘れてしまう。

結局、シルヴァは操り人形のようにただひたすら、落ちないように彼の背にしがみ付いていることしかできなかった。

涙が出ない。
声も出ない。

ただただ、目の前で起こった映画のような現実が受け入れ難くて、黙ってジクジクと血を流す心を抱えていた。

一晩飛び続けて、グリフィンは小さな港町にシルヴァを運んだ。

聞けば、そこから3日にいっぺんしかも1日一回だけガガナ行きの船が出ていると言うことだったので、シルヴァは翌日、言われた通り船に乗った。

海の上を滑る船の音は、思っていたよりも騒々しく、気が滅入る。

(こんな時、ブラッドさんがいてくれたら…)

早く彼と合流したかった。

今までブラッドのことは不審な同業者としか思っていなかったが、想像以上に自分は彼を必要としているようだった。

それは、勿論恋愛感情なんかではない。

ただ、これ以上一人きりでいたら泣いてしまいそうだった。

父と、母の顔がちらつく。

イヴァの顔がちらつく。

そして、全てが紅に染まる。