「…ここが、」

ここがガーディアナだ。

噛みしめた唇から、言葉を吐き出した。

「…そうですね。」

存じておりました。

そう言って、娘は涙すら流すこともできずに膝を抱えて蹲った。

武装していた甲冑はぼろぼろで煤にまみれ、娘の髪は、すっかり焦げてまばらな長さになってしまっていた。

電話が、微かに震える。

「ブラッド、無事か?」

電話口から聞こえてきたのは、上司であり、グレスト国家警察国務長官であるブライトの声。

その声色は、わずかだが焦りを感じさせた。

「怪我人多数につき、医師団の応援を要請したい。」

「お前が緊急連絡なんて寄越したのは初めてだな、すぐ一番近くの基地から応援が行くから、何とか持ちこたえてろ。」

力強い声。ブラッドは少しばかり安堵して、了解したと告げる。

「アタキアナ軍が、特殊ミサイルを使ったな。」

「…そうみてぇだ。」

「涙は、」

「シルヴァが持ってる。ガガナに向かっているはずだ。」

涙、涙、女神の涙。

腕の中で萎れた娘が、弱々しく涙を流している。

だが、同情してはいけない。

いけない。

「紅き使者が現れてしまったな。頼むブラッド、お前もキツいだろうが、早急に回収を頼むぞ。」

早くしないと、厄介なことになる。

ブライトの声。任務を、全うせよと、命じる。

それが、酷く冷たく響いた。

心が、渇いて行く。

この現実にあって、それでもなお理性で行動し、業を成せと言うのか。

娘の涙と女神の涙が、両側から心を引いてズタズタにしていく。

了解したと相づちを打って、ブラッドは血の味が滲むほどに唇を噛んだ。

わかっている。

俺は、俺のために、女神の涙を集めきらなくてはならないのだから

──

残る女神の涙は、

あとひとつ。