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「─嘘、だろ。」

目の前に広がる光景は、嘘でもなければ映画の撮影でもなかった。

灼熱の空気が、ジリジリと肺を焼く。塵が舞い、息が詰まる。

地面は真っ黒に焼けただれて燻り、あちこちから煙を吹いている。

何も、無い。

あるのは、燃えかすの山だけ。

そして酷く臭い。

油と、木と、レンガと、肉と──様々なものが焼き尽くされた、その結果だった。

死んだ、街。

想像、イメージが襲い掛かって来て、ブラッドは吐き気を催した。

熱い塵に、むせ返る。

急いでシャツを破り、口を覆って頭の後ろで結んだ。

現実は、想像を超える。

アタキアナの指令部で、最高司令官リヴェルの遺体を発見して途方に暮れていたところに、一羽の鴉が不意に現れて言った。

「シルヴァ、ハ、ガガナヘイク。」

と。その鴉は、瞳に琥珀のような不思議な色を宿していたから、すぐに女神イヴァの使いだと理解して、戻って来るとこの光景が待っていた。

パチ…パチパチ……

しんと静まり返った廃墟、火の粉がはぜる音以外には自分の苦しげな呼吸と足音しか聞こえない。

不意に、ぽつりと、額を水滴が打った。

空を見上げれば、大量に火を炊いたからだろう。青空の中、ガーディアナの上空にだけ不自然に湧いた雨雲。

どんよりと立ち込めたそれから、生ぬるい液体が滴り落ちて来ては地面にねっとりとした染みを作る。

─悪夢。

夢なら、早く覚めればいい。

だが、これは夢じゃない。

ゆっくりと、ブラッドは歩みを進める。

これは、夢じゃない。夢じゃないなら、現実は夢と大して変わらない。

そう思った。