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たったったったっ…

イヴァが手配してくれていたグリフィンが、力強く地を蹴る。

亜麻色の立て髪が風にはためき、リズム良く刻まれる足音と一緒に景色がぐんぐん流れて行く。

馬にも乗れない私が、頭が鷲、胴がライオンの(オマケに翼まで生えている)グリフィンに乗れているなんて、正直信じられないが、

魔法のおかげか、この勇敢な動物は恐ろしく乗り心地が良い。

ピュイーイィ!!

グリフィンがいななく。獰猛な笛のような声だ。

温かな体温と、荒い呼吸が直に伝わって来る。

私は、首をひねって遥か遠くになってしまったガーディアナを見やった。

まだ大きな変化は見られない。

本当は、ひとりで行くのには少し不安があって、ブラッドと合流してから出発したかったのだが、

女神の涙を手渡したイヴァの顔を見たら、そんな心細さはどうでも良くなった。

私がやらねばならない。

そんな使命感にも似た思いに、胸を満たされていた。

ブラッドを頼りにしている反面、本当は警察になど頼りたくないと思っている自分がいることは知っている。

どのみち、彼とは合流する訳だから、それで女神の涙が揃うなら、ひとりで出発するのなんて簡単なことだ。

向かうのは、地上で最後のドラゴンの島、ガガナ。

そこで、5つの女神の涙が揃う。

大女神グレスティア。

この世界を創りだした女神たちのリーダーに、イヴァは「伝えてくれ」と言った。

(でも…何を伝えたら良い?)

分からない。

きっといくばくの希望を抱いて世界を、私たちを創りだしたであろう方に、私達は胸を張って目の前に立つことができるのだろうか。

滅びたくない。

救って下さい。と。

分からない。

たったったったっ…

風が頬を叩く。なびくたてがみが鼻先をくすぐって行く。

空気は乾き、空は突き抜けるように真っ青だ。

滅び行くか否かの間で揺れ動いているような世界には、見えない。

こんな時に不謹慎だが、気持ちが良い。

私は鼻歌混じりにグリフィンを操る。もう少し慣れたら、空を飛ばせてみよう。

そんなことを考えていた。

だから、気が付かなかったのだ。