乾いた風が、短く切りそろえた髪を荒々しくなぶって行く。

耳元ではそれが渦を巻いて逆巻き、時折ひゆひゆと音を立てる。

イヴァは、からりと晴れて雲一つ見当たらない空の下を、黙々と歩いていた。

女神の涙は、もうこの手にない。

かつての知の女神ディアナは、自分を置いて贄となり消えた。

そして頼りなさげで底抜けに優しかったリヴェルは、逝ってしまった。

頭の中で改めて反芻してみると、それらは心の中に燻るほんの僅かな思いだったはずなのに、途端に涙が溢れて来た。

何もかもが、自分を置いて通り過ぎて行く。

そして、自分もまた同じように、通り過ぎようとしている。

ならば、私の為すべきこととは果たして何なのだろう。

私が残して行けるものは一体どれくらいあるだろう。

イヴァは、歩き続ける。目には、次から次へと涙が充ちては弾けて行く。

それでも、立ち止まることはできない。

例え、その歩みの先に幸せが待っていなくとも。

それでも。

涙は止まらないが、心は不思議と凪いでいて、イヴァは取り乱したりはしなかった。

女神の涙を失って、そうして初めて彼女は、本当の女神になった。

太陽が、眩しい。

「イヴァ様!お待ちしておりました!」

遠くの広場が見える。

集まった人の群れの中から自分を呼ぶ声がして、イヴァは唇を噛みしめ涙を拭った。

時の流れの中、立ち止まれなかったのは、自分だけではない。

(恐らく、誰も彼も…みんな、そうだったのだろうな。)