何かの歯止めが効かなくなったように、イヴァは尚も続ける。

「遠い昔にも、ガーディアナとアタキアナは戦争をしていた。

私の先代の智の女神ディアナは、人質としてアタキアナに赴き、敵国に科学と繁栄をもたらしてやる代わりに、戦争を終結させた。」

…私に、大きすぎる志を託して行った。

「なぁ、教えてくれ。」

綺麗なバイオレットの瞳は、しかし私などではなく、どこか遠く、別の場所を見つめている。

「戦争などしなくとも、あの頃、人間は幸せだったはずだ。

食べ物も、仕事も、愛も、何もかも彼らは持っていたはずだ。なのに…どうして。

どうして人は「もっと」と夢を抱いたんだ。」

ため息のように、その声は湿って小さく震えた。

その姿は、あまりにも儚く頼りなさげで、これから勇んで戦いに臨もうと言う女神にはとても見えなかった。

「もっと」と、人が大きな夢を抱かなかったら、世界は違っていたのだろうか。

満ち足りることを知っていたら、果たして戦いなど起こらないのだろうか。

昔も、そして、今も。

私には、よく分からない。

涙、苦しみ、苦痛、私たちには、現実しかない。

いつも、目が覚めればいつだって現実と言うしがらみにがんじがらめにされて、息さえもろくに吸えない。

だから、人は夢見てしまうのか。

「…よく分かりません。ただ、夢なしで生きるには、現実って厳しすぎる気がします。私には。」

言うと、イヴァは酷く穏やかな表情をした。