「何だ。」

「急に空襲とか街を出ろとか言われても、私…」

「死にたくなければ言われた通りにするんだ。

覚えておけ、現実が迫った時に、無駄なことを考えていれば必ず死ぬぞ。」

…そんなこと、あなたに言われなくたって分かっている。

そう吐き出したい気持ちを無理やり押さえ付けた。

「上官であるブラッドがまだ戻っていません。」

「電話があるだろう、連絡しろ。でなければギィを使いにやる。」

いつの間にそこにいたのか、美しい鴉が一羽、彼女の肩口に羽根を下ろして控え目に鳴いた。

不意に、イヴァは怒ったような口調から、一変して穏やかと言えるほど静かに切り出した。

「明け方な、リヴェルが死んだ。」

「え?」

「今朝、奴の想いが、私に夢を見せて行った。

空襲の夢…

私は予知夢で未来を占ったりもするが…あんなに鮮明な夢を見たのは今日が初めてだ。

…あの馬鹿、自分の身よりも私を案じていたんだろうか。」

その声色は誰を笑っていたのか、嫌に自嘲気味に響いた。

「自分の志を誰かに託すのは、そんなにも貴いことなのか。

誰も彼も私に託すだけ託して、そうして死んで行く。

…もうたくさんだ。」