いつしか、バサナの手にはピストルが握られていた。

ダツン、ダツン、ダツンッ!!!

つんと鼻を突く火薬の匂いが、広がる。

兄は、抵抗しなかった。

むしろ、すべての重圧から解放されかけたその瞬間、彼は微笑したようにさえ見えた。

生木が裂かれて地面に打ち拉がれるように、リヴェルの細身な肢体が、冷たい床に沈んだ。

静寂。

残ったのは、獣のような荒い息遣いと、震える程の、静寂。

バサナは、鼻を啜った。

小さく身震いすると、彼はかつて彼の兄だった男が仕事の為に使用していた電話に手を伸ばした。

躊躇なく持ち上げ、兄が押し慣れていたであろう軍部に通じる登録ボタンを押した。

「アタキアナ軍、最高司令官リヴェルが暗殺された。

よって、たった今から、兄に変わり、弟であるこの俺、バサナが指揮を取る。」

一筋頬を伝い落ちた涙が、朝日を受けて光る。

その声が揺れることはなく、誰にも彼が泣いてるとは分からなかった。

「直ちに宣戦布告をし直せ。

アタキアナ軍は敵国ガーディアナへ進攻を開始する!」