街の中心部へとやって来ても、状況は変わらなかった。

それどころか、肉が朽ちたような腐敗臭は強くなる一方であった。

飢えに痩せ細り、生きる気力すら失ったような人間が、路地に多く横たわっているのが目についた。
彼らには雨露をしのぐ家すらないのだろうか。

気が滅入る。

事前に入手した情報では、アタキアナは少し前に、国として破綻したことを公にしたそうだが、

実際、国の腐敗はその発表のずっと以前から、かなり進行していたのかもしれない。

不況や、流行病、災害。

苦しみに呑まれて、そうしていつしか、彼らを救ってくれるはずの政府も、法も、信仰も、なくなってしまっていたのだろうか。

その時、路地に傾きかけたように並んでいる古ぼけた家のひとつのドアが開いた。

静寂を塗りこんだような陰欝な街に木霊する、音。

思わず、ブラッドは立ち止まった。

中から出てきたのは、若い男。それに、乳飲み子を抱いた若い女が続いた。

かなり痩せており、顔色はあまり良くない。

しかし、興奮に頬を紅潮させた若い夫婦は、路上に転がった他の誰よりも幸せそうだった。

「待っていろよ。この戦争に勝って、沢山食べ物を持って帰って来るからな!」

「ええ…気をつけてね。この子と…この国の皆の為に、頑張って来て…」

愛しているよ。そう、2人の瞳が語り合う。夫婦は、固く抱きしめあった。

平和、戦争、幸せ…

胸が苦しくなって、ブラッドは足早にその場を後にした。

自分の仕事は、この戦争を止めることであって、彼らに同情することではない。

何度も何度も、自分自身にそう言い聞かせて。