「今日が、貴様と顔を合わせる最後だ。明日から、この国は完全に閉鎖される。」

「そうだね…だから、お別れを言いに来たんだ。」

「律儀なことだな。最後まで。」

彼が彼女の家を訪れるようになってから、果たして何年になるのだろう。

優しいのか、へなちょこなのか、よくわからない態度には苛々させられっぱなしだったが、

彼が初めて訪ねて来た時のことを彼女は未だに覚えていた。

恐らく、2・3年前。

伝説も女神も、人々に忘れ去られて久しく、ガーディアナの人間すらほとんど人の出入りがなかった時、

彼は突然やって来て言ったのだった。

グレスト王国の伝説を執筆なさっているイヴァさんのお宅は、こちらでしょうか。と。

眼鏡の下で、熱を持って輝く瞳を見て、人間にもまだこんなのがいたのたかと少しだけ感心した。

「突っかかって悪かったな。お前は、男にしてはなかなか良い奴だったよ。」

「ははっ…それはどうも。」

イヴァが男嫌いなのは、魔女迫害をされたの時の名残。

それを話の端々から聞き、理解していたから、

リヴェルはもう敢えてそこに触れることはしなかった。