シルヴァが赤く染まった月を目にした同じ時、イヴァも書斎の窓を開け放ってその様を見ていた。

庭に面した窓の木枠に肘をつき、彼女は小さく吐息を漏らす。

イヴァが作った、ハーブや薔薇がこじんまりと咲く小さな庭に、

厚い雲の間から顔を出した、血の色の月が、グロテスクなコントラストを醸している。

「…ディアナ、私はどうしたら良い」

亡き先代の名を呟くと、それはすとんと胸の奥底にすべり落ちて行って、小さい水溜まりを作った。

ふと、足先に紙が落ちているのに気が付く。

イヴァは部屋を振り返って苦笑した。

先ほど書いていた箇所がどうにも気に食わなくて、少々暴れてしまったのだ。

先代ならば、こんな失態は犯さなかっただろう。と思うと、何となくもの悲しくなった。

爪先で、床に散らばった紙を少しもてあそび、彼女は再び月に向き直った。

「…誰だ。そこにいるのは、」

気配が漂う薔薇の茂みに声をかけると、がさごそと動いてそこからリヴェルがひょこりと顔を覗かせた。

薔薇の刺で傷つけたのだろうか、顔中に小さな切り傷ができている。

「またお前か…」

イヴァがため息を着くと、リヴェルは叱られた子供のようにしゅんとうなだれた。

「あの…あの、イヴァ、」

「なんだ。」

「……傍に行っても、良いかい。」

「…………」

無言で肯定してやる。

リヴェルはおずおずと茂みから這い出し、イヴァが顔を出している窓辺の壁に寄りかかった。