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「…まずいことになって来やがったな。」

夜、

厚く重なった雲は月の柔らかな光を遮り、陰鬱な闇を生み出す。

部屋がないという理由でひとつの寝室に押し込まれたシルヴァとブラッドだったが、

シルヴァにベッドを譲り、ソファに横になっていたブラッドは、不意にぼそりと呟いた。

「…どういうことです。」

「まんまだ。」

「ヤバいんですか。」

「…まあな。」

「じゃあ教えて下さいよ。

ブラッドさんはいつもそうです。自分は何でも知ってて勝手に色々言ったりやったりして。

私には何も教えてくれない。」

私、ブラッドさんのパートナーとして「シオナ」にスカウトされたんじゃないんですか。

良い機会だと思い切って言ってやった。

大体、これじゃあ仕事してるんだかちょっとつらい観光旅行してるんだか大した区別もつかない。

滅多にないような反抗に、彼は驚いたようだった。

視界の端に、ブラッドが目を丸くしたのがちらりと映る。

寝返りを打って彼に背を向けた。

柄にもなく、彼が少し困惑しているのが分かった。

「…お前、そんなこと考えてたのか。」

「そう考えない方がおかしいと思いますけど。」

「そうか…」

確かにそうかもな。

そう呟くと、ブラッドはしばらく考えた。

私に仕事の内容を伝えるのは、そんなにまずいことなんだろうか。

それとも、急に話して聞かせるにはあまりにも難解な仕事なのだろうか。

私としては、後者であることを願うけど。

「…お前、どうして俺たちが女神の涙を集めるのか、分かるか。」

「普通に考えて、私に分かるはずありませんよねえ。」

「…今までよくやってこれたな。そんなんで。」

「お給料が良いので。」

ブラッドは、私のがめついリアクションに一瞬は引いたようだったが、

すぐに気を取り直して、それなら教えてやるよ。

と、改まって話し始めた。