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目に染みるほど真っ赤な絨毯を踏みしめて歩く。

いかにも中世のような。と言う言葉がよく似合う城内は、古いながらも綺麗に整備され、

メイドや王室付きの魔女がゆったりと仕事に勤しんでいる。

ずいぶん前から時を刻むのを止めてしまったこの国は、

いわゆる魔法が科学に取って代わられ始めた時代から、ほとんど変わっていない。

いや。変わらないように努めて来たのだ。

他でもない、この町の者達がそれを望んだ。

「魔女迫害」から逃れて来た彼女らの先祖達の、それは切実な思いであった。

だから、この国の住人はそのほとんどが魔女─すなわち女性だ。

ここでは火を起こすのも、城を守るのも、病を癒すのも、未だに全て魔法で行われている。

だが、イヴァはこの街のそんなところが好きだった。

忘れまいとする意志。

それは、何より彼女が人々に欲して止まないものだ。

「現在」など、なくなってしまえば良いと思う。

はるか昔に、人が「もっと」と言う愚かな夢を抱いたその前に戻ってしまえば良い、と。

長い長い階段をゆっくりと上り、目的のドアの前に止まる。

ノックの後に力を込めて重厚なそれを開けば、いつもと変わらない朗らかな女王の笑顔がそこにあるはずだった。

「王室付き魔女総長イヴァ、面会に参りました。女王陛下」

「イヴァ…。」

しかし、そこにあったのは悲しみとも苦しみともつかない感情に歪んだ美しい顔。

そして、

「戦争が…始まってしまうわ。」

恐ろしい言葉だった。