ぱた、ぱたぱた

鴉が、シルヴァを睨み付けていたイヴァの肩に来て、止まった。

それが、行き場もなく淀めいた沈黙を、上手く破ってくれた。

「ん…どうした。」

鴉がクリュ、クリュ、と喉を転がすような声を出す。

しばらくそれを聞くと、イヴァはふしゅと、ため息を漏らした。

「分かった。ありがとう、ギィ。」

どうやらあの鴉はギィと言う名前だったようで。

彼(彼女?)が肩を離れたのを見届けると、イヴァは身を翻して外套を身にまとった。

「どこ、行くんです。」

「……私の書斎には、絶対に入るなよ。

女神の涙はやるから、できれば私がこの家にいない間はどこかよそへ行ってくれ。」

お前を不快にしてしまうだけだからな。

ぽっそりと呟いて、イヴァは家を出ていった。

先ほどまでの虚勢は微塵もなく、まるで、八つ当たりしたことを後悔している子供のようだった。

「変な人…」

残されたシルヴァの言葉は、本が埋め尽くす空間に静かに吸い込まれて消えて行った。