「永き眠りより、目覚めん……か」

夕焼けに染まり始めた空にぽつりと呟くと、ブラッドは[グレスト王国創世記]を閉じた。

町の空気は既に夜のものへと姿を変え、落ち着いた、しかしどことなく寂しげなものが町を満たしている。

この本は、国務総監。すなわち彼のボスに当たる男、ブライトに持たされたものだった。

イヴァが執筆したものだから、読むと良い、と。

あの若さにして、圧倒的なまでの風格を持ったあの男は、周りからの評価も高い。

彼は現グレスト国王の兄に当たるが、自ら警察という職を選び、実力であの地位まで上り詰めた。

あれほどまでにリーダーとしての素質に優れた男がなぜ、自ら玉座を降りたのか、ブラッドには未だに分からなかった。

女神の涙を集めると言う任務も、彼が提案したからこそ、特に周囲から何の異論もなく進められている。

責任感の塊のような男だから、玉座より人々の前線に立つほうが、やはり性に合うのだろうか。

どちらにしろ、ブラッドは彼に少なからず感謝していた。

任務で何をやらかしても、多少は多目に見てくれるから、仕事がしやすいのだ。

今は、町の様子見がてらサボっているが。