向かい会って座ったブラッドは、相変わらず不機嫌そうな顔で煙草を吹かしている。

気休めにつけたラジオからは、東のモークルでの山火事や北のガレンジでの大竜巻の被害状況がひっきりなしに流れていた。

「…何て言うところでしたっけ。次の女神様がいるのは、」

「ガーディアナ。古い魔法都市。」

「グレストに魔法都市なんて…まだあったんですか。」

「とりあえずな。今じゃあ魔法を使える人間なんて、ガーディアナの魔女かグレスト王家のお偉いさんしかいねえよ。」

伝説ではかつてグレスト全域に優秀な魔法使いがたくさんいたそうだが…そんな人間はもうとっくにいない。

いたとしても、誇り高き王族。

もしくは馬車でしか出入りできないような辺境の深い森に入らなければ、お目にかかることさえできない。

「…どんなとこなんだろ。」

深い森の奥の、魔法使いの国。

期待半分、不安半分。

今回こそは悲惨な旅にならないよう、私は心の中でひっそり父と母に祈った。

次のニュースです。先ほどから、首都グレストの南方の町、アッティカで集中豪雨が………

先月は、伝染病でたくさんの人が亡くなったらしい。

祈りついでに、女神リフィエラの街ライラシティの無事も祈って、

私は未だ終わりが見えない馬車の旅にため息をついたのだった。