*シルヴァ*

シャ、シャ、シャ、

「ねぇ、ブラッドさん。」

リニアの窓から、遠くにライラシティのビル群が目に入る。

流れて行く景色の所々からは森の緑が顔を覗かせていて、最後に、街の中心に聳える大木が見えた。

ブラッドは、相変わらず煙草をふかしながらエメラルドグリーンの小さな玉をアクセサリー入れのようなケースにしまいこんでいる。

エルザは、事態の収拾を仕切るためにライラシティに残った。

不審火事件や国長の殺人事件で、ライラシティからは多くの人が消え、このリニアに乗っている人もほとんどいない。


「……没落だな。」
「え。」

「人工人間産業は失敗。
国長も死んだ。女神は力のほとんどを失ったまま。

水と土が汚れてんなら、そのうちあの森だって全滅するはずだ。

お前、あの街がどうなるか気にしてんだろ。

おとぎ話じゃねえんだぞ。末路は見えてる。」

そう言って、ブラッドは上質な真っ白い封筒を差し出した。

何かの紋章のような立派な判が押してあり、それが今回の給料だと分かった。

「受け取れ。ボランティアじゃねぇんだ。」

「……いりません、」

「俺たちの仕事は女神の涙を集める事だ。街を救うこととは、全く関係ない。」
「…でも、」

そんな言い方って、ないじゃないか。

欲望のために滅びるのが自業自得だと言うんだったら、私も、彼だって、今すぐ滅びなければならないんじゃないか。

鬱蒼とした気分。空気が欲しい。窓が開けられたら良いのに。

私はもう一度窓の外に目を向けた。

そして

目を疑った。

「え……」

あれは、

「…綿毛、」

街の中央に立つ御神木が、空いっぱいに広げた枝一面に真っ白な綿毛をつけている。

Hannaが言っていた御神木の伝説は、本当だったのだ。

「ブラッドさん、ブラッドさん!御神木が、」

声を上げると、座席を挟んで反対側に座っていたブラッドは不思議そうな顔をしながらこちらに歩み寄り、私の席までやってくると、ぽかんと口を開けた。

「…嘘だろ、」

「あの樹、まだ生きてたんですね。」

「信じらんねぇ。」

ぼそりと呟くと、ブラッドは私の向かい側の対面式になったシートに座った。