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そよそよと、頬を撫でる柔らかな風に、ため息は溶けて消えて行った。

大樹のふもとの病院からは皆が避難して今は誰もおらず、

大樹の影が映り、風がそよぐ原っぱには、エルザのおかげで今ようやく意識を取り戻したシルヴァとキリュウそしてリフィエラの4人しかいない。

大樹の地下のドームに繋がる樹の「うろ」から、ブラッドが黒焦げになったHannaを連れて出てきたのを確認すると、リフィエラはやはりため息を抑えることができなかった。

大樹と研究室を繋いでいた道を閉ざしたのは、他でもないHannaであった。

御神木や病院への引火は免れたものの、その代償は彼女の命そのものだった。

静かに少女の身体を地面に下ろすと、ブラッドは踵を返し足早にその場を去って行った。

リフィエラは、そっと横たわった少女に歩みより、その身体から優しく女神の涙を取り出した。

木漏れ日の受け、掌で煌めくエメラルドグリーンの玉。彼女は直に力が戻って来ることに顔をしかめた。

動かない少女を眺める。

無力感。

始めは、誰かを救いたい一心で、少女に命と女神の涙を与えた。

だが、結局誰一人救うことはできなかった。

少女を苦しめ、科学者をいたずらに絶望させるだけだった。

少女に申し訳なく思うと同時に、どうしようもない背徳感に襲われる。

静かな木陰では、皆が動こうとはしない。

「…シルヴァさん。」

歩み寄り、女神の涙を手渡す。

娘は、目を丸くした。

「持って行って下さい。私には女神の役はもう勤まりません。大女神グレスティア様の審判に、全てを委ねましょう……、」

「ちょっと待て。」

冷酷な、横槍が入る。

科学者キリュウが、女神リフィエラの肩を掴んでいた。

「女神の涙はもういらないだと?ふざけた事を抜かすな。責任を放棄するのか。
街の女達…貴様に救って貰えなかった私の娘はどうなる。」

「…、それは……」