*シルヴァ*

ズズズ…ズズ…ズズズズ……

背後から、不気味な振動が迫って来る。

背中に背負ったリフィエラがずり落ちそうになるのを何とか押さえて、もと来た道を、私とブラッド、Hannaは駆け戻っていた(リフィエラは私、キリュウはブラッドが背負っている)。

熱気がすごい。荒い呼吸の度に肺の中には焼け付くような熱が入り込んで来る。

私が入り込んだ御神木の内部と、キリュウの研究室とは、この道で一つながりになっていたのだ。

走っても走っても終わりが見えない闇に、苛々する。
大体、どうして毎度毎度私は行く先々で危ない目にあわないとならないのだろうか。

あぁ、肺が痛い腕が痛い足が痛い!

前を走るブラッドの背中にとっておきの殺意をプレゼントした。

「おい、シルヴァ!後どのくらいだ!!」

知るか!私が聞きたいわ!!

言い返してやろうとした、その時だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

後ろを振り返って、後悔した。どうしてもっと急がなかったんだろう…。

キリュウの研究室がついに爆発して、壁を突き破った炎の波が、すぐ背後にまで迫っていた。


「ブラッドさん!走って!!」

目の前には光。出口は目前だった。

しかし、皮膚を溶かすような灼熱に、もう間に合わないと本能が告げていた。

煙に巻かれ、視界が霞んで行く。苦しい。咳込んだ拍子に、肺には大量の煙が流れ込んだ。先を進むブラッドの背中が、遠くなって行く。リフィエラが背中からずり落ちる。膝が崩れ落ちた。

誰かの掌が、肩に触れた気がした。

集え
大地に眠る者達よ
罪人の償いに
涙を流しておくれ
私が静かに
眠れるように

聞いたことのある声だ。若い娘の声。心地良くどこか悲しい調べ。

遠くから、ブラッドがこちらに走って来るのが薄れて行く意識の中で見えた。

静まれ
怒れる者達よ
謳え

魂鎮めの子守唄を───