怒りに塗り潰されたその表情で、Hannaは真っ赤に燃える炎を灯したその手を伸ばした。

大蛇のようにのたうつ炎の触手は、キリュウを呑み込もうと迫る。

後退りするキリュウの白衣の袖をその一本が絡め取った。

「う……うわあぁぁっ!!」

絶叫があがったその時、

ズダンッズダンッズダンッ!!!

「止めろ!!!」

激しい銃声と共に、ブラッドの咆哮が響き渡った。

深紅のうねりを臆することなく2人の間に割って入ると、彼は両手を大きく広げた。

「もう、止めろ、Hanna!!」

息も切れ切れに、叫ぶ。すでに室内は、炎の渦の中に呑み込まれ、凄まじいまでの熱風が吹き荒れている。

「た…頼む、あいつを、あいつを殺してくれ!失敗作なん、」
「黙ってろ!!」
「がはっ」

すがりついて来たキリュウを力の限り殴り飛ばす。あっさり気絶してしまった彼には目もくれず、ブラッドは、未だ幼さの残るHannaの瞳を、その紅の瞳でまっすぐに見つめた。

「これ以上、人間なんかのために汚れるな。裁きなんざ女神の仕事だ。人を裁くには、お前は、人間に近すぎる。」

きつい言葉に包まれた、優しさ。知らず、少女の瞳から、涙がこぼれた。

しかし、それは間近に迫った灼熱に、あっという間に乾かされていってしまう。

「お願いデス…どいて……」

ズ……ズズズ……ゴゴゴゴゴゴ!

突然、地面が暴れのたうつ蛇のように激しく蠢いた。直ぐに、それは体内を揺るがす暴音に変わる。所内が、爆発を始めた。

「おい、逃げるぞ!」
「…一体、どこに逃げるつもりデス。意識のないハハと、その男を担いで。」
「つべこべ言ってんじゃねえ!逃げるんだよ!」

しかしながら、彼自身にも名案があるわけでもなく。リフィエラのバンドを急いで切り裂きながら、ブラッドは強く唇を噛み締めた。

「キリュウさん!リフィエラさん!居るんなら返事して下さい!」

不意に、凛とした叫び声が燃え盛る炎の轟音を打ち破って響いた。

辛うじて火の手から逃れていた部屋の奥の壁がせりあがり、そこから駆け込んだ来たのは、シルヴァだった。