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動かなくなったリフィエラを眺めて、キリュウは満足気に唇を歪めた。

先ほどから、研究所のあちこちで原因不明の火災が起こっているようだったが、今は護衛用のアンドロイドが全て鎮火しつつある。

祟りかと、一瞬でも焦りを感じた自分を笑った。そんなふざけた迷信、あるはずかない。

(もうすぐ、私の時代が来る……)

神ではなく科学が支配する時代。死人と容易に再会できる時代。キリュウは、笑った。

その時であった。

ズズ……ズズズ……

大理石の床が、不気味に揺れる。地震とは比べものにならない。

治まる気配を見せないその揺れが、研究室の目前まで迫った爆発であるとキリュウが気づくころには、室内に灼熱の空気が満ち始めていた。

「な…何だ!?火災報知器はどうした!!」

「そんなもの、当の昔に壊しマシタよ。キリュウ博士。」

聞き慣れた、大嫌いな声がした。娘と同じ声を持ちながら、娘とは違う作り物の、声。

ドアが、ゆっくりと開く。熱風が吹き込んで来た。外は、真っ赤な火の海だった。

ゆらゆらと、蜃気楼のようにその赤の中に浮かぶHannaの姿は、さながら深紅の炎の翼を持った悪魔だった。

「は…Hanna…どういうつもりだ……。」

「どういうつもりダ……?それは私の台詞デス。なぜ、私の母がそこに横たわっているんデスか。」

「これは……」


「知っていマスか。薬屋の国長が井戸水に毒を混ぜていたんデス。

毒の水を飲んだご婦人方は、不妊に悩むようになりマシた。

悩んだご婦人方は、人工の子供を欲するようになりマシタね。

………さぞや儲かったデショう?キリュウ博士。」

ごうごうと音を立てて渦巻く業火を臆することなく、Hannaは続ける。

その冷め切った視線は、まっすぐにキリュウただ一人を射ぬいていた。