「人間でも植物でもアンドロイドでもない…か。かなり助かる話だが、あんた、見ず知らずの俺にそんなこと話して大丈夫なのか。何か企業秘密臭えんだか…。」

ひと息にすらすらと言葉を紡ぐ彼(彼女かも知れないが)にそう言えば、少年は今ごろ自覚したのか、恥ずかしそうにはにかんで、口を閉ざした。

なるほど、確かにアンドロイドには照れるという感情はない。

「申し訳ありません。話しを聞いて頂けるなんて、久しぶりだったものですから…。」

「構わねえさ。ところで、逃げ道を知らねえか。キリュウに、狙われいる。」

「…ここにいれば、大丈夫だと思います。ここはキリュウ博士の重要な研究室のひとつですし、マザーコンピュータはここにしかありません。

子供達が入った水槽を傷つけないためにも、外から撃ってくることはまずないでしょう。

運の良いことに、私もあなたも、シャットダウンされたマザーコンピュータを立ち上げる技術は持っていませんし。」

「それもそうか…詳しいんだな。」

「ええ、まあ。誰も私のことなど気にしませんから…学者達の話を盗み聞くのには最適の立場ですよ。」

「そうか…。」

「肉体を与えておいて、勝手なものです。実験の時以外、誰も私には目もくれない。」

「………。」

何とも居づらい、乾いた空気が満ちた。そのくせ、人間であるブラッドに対する憎悪はあまり見てとれない。

「…おや、」

「……?」

にわかに、彼の目が喜びの輝きを帯びた。

「微かにですが、Hannaの声が聞こえます。奇跡だ…もう聞こえないと思っていました。」

「Hannaは、何と?」

「フ…ク……シュ……え?」

小言で呟くと、わずかだが、少年の顔に焦りの色が浮かんだ。

「…ここは、危ないかも知れません。出口を……」