「あ~~~あっつい!!」


夏の日差しが容赦なく照
りつける中、翠は柄にも
なくそう叫ぶなり制服の
スカーフを乱暴に外して
両襟を大きく開いた。


「ほんと、こんなんじゃ
やってらんないわよ」


続いて、紗奈恵も悪態を
つきながら顔周辺を下敷
きで懸命に仰ぎ始めた。

一方弥嘉は、そのような
素振りを見せることなく
ひたすら携帯の画面に全
神経を集中させていた。




「――ところで、さっき
から何を見ているの?」

「え、えっと、個人的に
気になるニュースがあっ
たものですから……」


突然左肩に重みを感じた
ために、弥嘉は些か取り
乱しつつも自身の携帯を
紗奈恵の前に突き出す。


「ふぅん、どれどれ?」

「この一番上の行です。
“5月下旬から鬱や無気力
を訴える人々が老若男女
を問わず急増しており、
その勢いは止まることを
知らない。だが、未だに
詳しい原因は解明されて
おらず、専門家達の間で
も議論がなされている”
……五月病の割には期間
が長い上に人数も多すぎ
ますし、ちょっとおかし
くありませんか?」


尚も左肩に手を乗せる紗
奈恵に問いかけるうち、
弥嘉は知らず知らず眉間
にシワを寄せていった。

すると、それを見かねた
紗奈恵があたかも重い空
気を振り払うかの如く明
るい調子で話し始めた。


「ひょっとすると、最近
続いている猛暑のせいか
もしれないわね。この暑
さなら鬱や無気力になっ
ても不思議じゃないし」

「そう、でしょうか?」

「きっとそうよ。だから
弥嘉がそこまで気に病む
ことないんじゃない?」


そうは言っても先のニュ
ースが頭をよぎる弥嘉か
らすれば完全に納得出来
るものではなかったが、
紗奈恵の心ばかりの気遣
いを察するや否や徐に携
帯を閉じたのであった。