よもや無断でこの部屋に
入ってくるとは思わなか
ったため、驚きのあまり
都はその場から一歩たり
とも動けずにいた。
それを知ってか知らずか
綾瀬という男は相変わら
ずの様子で話を続けた。
「ところで、ご両親への
お手紙は既に書かれてい
らっしゃいますか?」
「へっ!?ああ、一応書き
ましたけど日付が……」
「でしたら4月11日に到着
すると明記して頂いても
宜しいですか?遠回りを
しますから、それくらい
はかかるでしょうし」
交通網が張り巡らされた
社会を生きる者にとって
あるまじき発言を受け、
都は大きく目を見開くと
無遠慮に声を響かせた。
「ちょっ!?ここそんなに
遠い所なん!?車で一週間
なんて相当異常やで!?」
「生憎今は高速が使えま
せんから。ご不便をおか
けしますが、何卒ご理解
頂ければと思います」
「そんな曖昧な説明で、
分かるわけないやろう!?
ちゃんと納得いく……」
都がそこまで言い終わら
ないうちに、彼から体の
芯まで瞬時に冷えるよう
な視線を浴びせられた。
「先程、後でお話すると
申し上げたはずですよ?
それより今は口より手を
動かしてください」
『この兄ちゃん、むちゃ
くちゃキッツイわぁ!!』
先程の丁寧な言葉遣いの
中に鋭い棘を感じ取った
都は暫し恐々とした表情
で綾瀬を見つめていた。
しかしながら、徐々に心
のゆとりが生まれてきた
らしく今度は別の意味で
まじまじと見始めた。
一見柔らかそうな物腰に
知的さが窺える切れ長の
目を持つその男は、黒い
スーツと長身も相まって
30代前半とは思えない程
の風格と、独特の雰囲気
をもつ長官室に呑まれる
ことのない圧倒的な存在
感を漂わせていた。
『流石あの人が見込んだ
だけのことはあるけど、
もうちょい優しくしてく
れてもええのに……』
そう心の中で密かに溜め
息を漏らすと、不思議な
ことに再び彼から睨み付
けられる羽目になった。
それによりすぐさま我に
返った都は、慌てて日付
を書き足して封をすると
最低限の荷物だけを鞄に
手早く詰め込んだ。


