「――これで一通り話し
たが他に何かあるか?」


徹はそう言って重い腰を
上げると徐に壱加の方を
見やった。

それに対し、壱加は未だ
表情を曇らせながら少し
ずつ頭を上げていった。


「さっきは、悪かった」

「いちいち気にするな。
そう言われるだけのこと
はしてきている……」


根深い哀愁を携えたその
瞳を見て、壱加は思わず
「余計気にするっての」
と小さく悪態をついた。

しかし、壱加はすぐさま
気を取り直して徹を正面
に見据えた。


「聞きてぇことはねぇん
だけど、頼みならある」

「……何だ?」


深刻な表情で話を切り出
した壱加に、徹は僅かに
たじろいだ。

すると壱加は、凛とした
声を客間に響かせた。


「――の……ねぇか?」

「――!!!???今更何を」

「俺は、実際に自分の目
で見た事しか信じるつも
りはねぇけど?」

「しかし、もう……」


徹にしては珍しく大いに
取り乱した様子で壱加に
食ってかかった。

それを面白そうに眺めな
がら、壱加はイタズラっ
子のように笑った。


「最後の最後まで望みは
捨てるもんじゃねぇぞ?
オ・ッ・サ・ン」


壱加はそう言い残すなり
客間の障子を開け放つ。

その瞬間、未だに湿気を
含む風が徹の両頬をかす
めていった。




――希望を信じ、少年は
救済への扉を開いた――




【Chapter.10 救済】完