『ぜってぇおかしい……
向こうの部屋でアイツの
身に何が起こった!?』


普段の弥嘉では到底考え
られないような行動に、
思わず吃驚した壱加だが
すぐさまその後を追いか
けていった。




彼女らの去った空間には
暖色の明かりだけが頼り
なく揺らめいていた。




     ***




壱加は甲斐甲斐しく部屋
まで付き添った後弥嘉を
ベッドに腰掛けさせた。

しかしながら、彼女は礼
も言わず虚ろな目を窓の
外に向けるだけだった。

先程までの麗らかな気候
とは打って変わり、滝の
如く降りしきる雨が窓を
一遍に曇らせる。


『まるで人形にでもなっ
ちまったみてぇだ……』


既に顔から血の気が失せ
見るからにやつれた彼女
の姿を眺めつつ、壱加は
大きな溜め息をついた。


『多分、このまま待って
ても拉致があかねぇな』


そう思うや否や、壱加は
静かに扉を閉めて部屋の
外へと足を踏み出した。




「今度は……俺が弥嘉を
助けてやるからな」




小さく握り拳を作りつつ
この場にはいない弥嘉に
向けて決意を述べた後、
壱加はポケットから徐に
携帯を取り出した。