2人がようやく船から降り
ると、遠くの方で黒い影
がどこか頼りなげに揺れ
動いていた。
弥嘉はしきりに目を擦り
その正体を確かめようと
したところ、月明かりが
徐々に暗闇を照らし始め
辺りを淡く光輝かせた。
「お疲れ」
「……さなえちゃん!?」
弥嘉は、素っ頓狂な声を
上げた後思わず紗奈恵に
駆け寄った。
「わざわざ待っててくだ
さったのですか!?」
「弥嘉が一人で頑張って
んのに、帰れるわけない
でしょ?まぁ、消防隊の
人には何度も止められた
んだけどね」
紗奈恵はイタズラっ子の
如く笑みを携え答えた。
***
「それにしても、所々の
記憶が抜けているみたい
なのよね。壱加を助けに
行ったところまでは覚え
ているんだけど……気付
いたらトイレにいるわ、
傍に弥嘉がいないわで、
あの時は相当焦ったわ」
そう言って溜め息をつく
紗奈恵を目にして、弥嘉
はある事を思い付いた。
「さなえちゃん、先程の
火事のことですが……」
「やっぱり、壱加の仕業
ではないのでしょう?」
弥嘉の言葉を途中で遮り
紗奈恵は早々に問うた。
その目からはほんの少し
の疑惑の色さえ見て取る
ことが出来なかった。


