「……結局睦月様は何が
したかったんだ!?」
今まで沈黙を守り続けて
いた壱加は、睦月の言動
に首を傾げながら思わず
小さく呟いた。
それをぼんやりと眺めて
いた弥嘉は静かに自身の
仮説を述べた。
「おそらく、私に会いに
きたのでしょうね」
「はあっ!?何でまた」
「――私の母と知り合い
だったようです」
「それは、さっき聞いた
けど……母親?あの家に
それらしき奴いたか?」
壱加の何気ない質問に、
弥嘉は表情を曇らせた。
「私を生んですぐに亡く
なりました。話によると
明朗で美しい女性だった
そうです。当時、彼女は
まだ24歳でした」
そう言って寂しそうな顔
をした弥嘉を見た途端、
壱加は「悪かったな」と
謝罪したきり閉口した。
『――それにしても実に
不思議な方でした。見た
目はあんなにも可愛らし
いのに、女王の名に相応
しいほど威厳に満ちてい
らっしゃって……そして
何より生前の母をご存知
のあのご様子』
弥嘉は壱加が黙っている
のを良いことに、暫くの
間思考を巡らせていた。
『何故だか分かりません
けれども、もう一度彼女
には会う気がします』
根拠のない予感を胸中に
抱きながら、弥嘉は彼と
共に甲板をあとにした。


