「何であの方が、こんな
場所まで来てんだよっ!?
封印されたんじゃ……」


“伝説”を肯定したこと
により、壱加は先程とは
比べものにならない恐怖
で体を震わせていた。


「なんで!!なんで!!なん
でなんだよっ!!」

「――――壱加っ!!」


狂ったように叫び続ける
壱加を、弥嘉はただ抱き
しめて落ち着かせること
しか出来なかった。




     ***




ようやく冷静さを取り戻
した壱加は少しずつ話し
始めていた。


「睦月様は、確かに先の
大戦でドラゴン側を勝利
に導いた方だが、噂では
裏でかなり暗躍していた
らしいんだ」

「……あ、暗躍?」

「特別保護法成立に手を
貸していたみたいだ」


それを聞いた弥嘉は一瞬
言葉に詰まった。


「え……それ………は」

「所謂、同族殺しだな」


壱加の、あまりにも生々
しい発言に弥嘉は思わず
我を忘れていた。


「なっ……何故!?だって
そんなのおかしい……」

「あくまでも噂だから、
俺にも本当かどうか知ら
ねぇよ!!ただ、俺達の間
では有名な話なんだよ。
それもあって、あの方は
“尊敬対象”というより
“畏怖対象”として見ら
れるほうが多いな」


壱加はそう言い終わると
目を伏せたきり口を開こ
うとはしなかった。