苅谷はそれを拒むかのように、自力で立ち上がると、また「ごめんね」と今度は静かに呟いた。






少し弱さを見せた苅谷が、どうしようもなく愛しくなった。



もっと、もっと、優しくしてあげたくなった。誰よりも強く包み込みたかった。



苅谷は俺の横を通り過ぎると、もう何も言わずに重い体を引きずりながらエントランスへと入っていった。




冷たいコンクリートにポタポタと雫がこぼれ、濡れたスカートの裾をしぼりきると、俺が見つめる苅谷の背中がどんどんと小さくなってゆく。



一人ぼっちになった俺には相変わらずの激しい雨が惨めさを知らせる


結局苅谷は一度も俺と目を合わすことのなかった。
そして俺の無力な手だけが景色に残ってしまったのだった...