こつこつこつ。

音をたてて黒板に書かれていく
「音楽祭について」という白い文字を
私はぼんやりと目で追いかけていた。

高校1年生の秋。
私が入学した年から
お試しで「音楽祭」ができてしまった。
市民会館を借りての合唱コンクール。
評判がよかったら毎年するみたい。

でも私は、音楽祭って好きじゃなかった。
歌うことが嫌いなんじゃない。
人前で何かをするっていうことが
すっごくすっごく苦手だった。


音楽祭で歌う曲名が黒板に大きく書かれている。
その文字を後ろにして
学級委員長の女の子がぽそぽそと説明をしていた。
聞いているのか、いないのか。
クラスのみんなは近くの席の友達と
おしゃべりをして盛り上がっている。

私も耳だけで説明を聞きながら
手元の歌詞プリントに目を落とす。

「この気持ちはなんだろう」

そんな言葉から始まる合唱曲。
青春時代のもどかしさを表した曲。
それは音楽の先生から説明されたもので
私にはその歌詞の意味は全然わからないものだった。