わたしの、センセ

「ねえ、悠真。もう一度、やり直せないかな？　私たち……」

真央が僕の膝もとに近寄ると、ベッドの下から僕を見上げてきた

拳をつくってる僕の手の上に、そっと冷たい手を乗せた真央が、哀願してくる

僕は小さく首を左右に振ると、「ごめん」とだけ呟いた

スッと真央の手が離れる

「そ…そうだよね！　ごめん。私こそ、ほんと…ごめん。なんでもないから、気にしないで」

真央がパッと明るい表情に切り替えると、僕から離れた

テーブルの上に置いてあるお盆を両手で掴んで、キッチンに向かう

「悠真の雰囲気がどんどん変わっていくから、ちょっとドキってしただけ…」

真央が、努めて明るい声で話す

頑張って明るい雰囲気にしようとしているのが、僕にひしひしと伝わってきた

無理してるだろ？

だけど、言えない

僕には、『無理するな』なんて言えるはずもない

僕と真央は、もう終わってるんだ

真央の気持ちを受け入れることはできない

終わったんだよ…僕たちは

とっくの昔に恋愛から離れてしまっていたんだ

ただ、他に出会いがなく、別れるきっかけも理由もなかったから、長く関係が続いてただけ

僕たちには、恋も愛も…とっくに失っていた

僕は携帯に視線を落とした

さくらに返信をしようと、携帯に触れると、ガシャンと皿が割れる音がした

「…いたっ」

真央が割れた皿の破片で、指先を切ったらしい

傷口をかぷっと口の中に入れると、痛みで顔をゆがめていた

「真央？」

「平気、平気！　ちょっと切っただけ」

真央が赤い目をして、苦笑いを浮かべていた

洗い物をしながら、僕に背を向けて泣いてたの？

涙を流して、視界が歪んで……手を滑らせて怪我をしたんだろ？