屋敷に戻ると、わたしの手荷物はメイドの手を渡る

帰宅の早いわたしに執事が慌てて、玄関まで出迎えに来たのがわかった

肩を上下に動いて、呼吸が激しく乱れている

そんな執事を見て、わたしはついクスクスと笑ってしまった

「いいのに。そんな焦らなくても」

わたしが肩を竦めて笑うと、執事が頭を下げた

「あ、いえ。あの…昨晩から戸倉様が……」

え?

執事の言葉にわたしの頬が強張った

道隆さんが…なに?

「屋敷におりまして、どうしてもお嬢様をお話をしたいと…」

わたしは眉間に力を入れると、視点が定まらなくなった

なんで?

何度もかかってくる電話を無視し続けたから?

だって、婚約は破棄になったのよね?

パパが、破棄にしたんでしょ?

違うの?

「どういうこと?」

わたしは執事の腕を掴むと、理由を聞こうとした

「さくらがいけないんだよ。俺を無視するから」

頭上から声がすると、吹き抜けになっている2階から道隆さんが顔を出した

「婚約は破棄になったはずです…けど」

「表面上はね」

道隆さんがにっこりと笑う

「表面上?」

「だってさくらのお父さんは、俺の権力と地位が欲しいんだよ? 手を切るわけがないじゃん」

道隆さんが勝ち誇ったような顔をする

ちょっと待って?

婚約破棄になってないの?