愛の雫

ビルから出ると、黒いセダンに乗った店長が窓を開けた。


「早く乗って!」


陽子さんを後ろに乗せた奈緒ちゃんは、反対側に廻って車に乗り込んだ。


「希咲は後ろに乗って、陽子さんの隣にいてあげな」


凪兄はそう言って、助手席のドアを開けた。


「え……?でも……」


「ほら、早く!」


躊躇するあたしの背中を、凪兄がポンと押した。


あたしは迷っている暇なんて無いんだと自分自身に言い聞かせ、戸惑いを押し退けて陽子さんの隣に座った。