愛の雫

「……希咲?」


電車を降りて改札を抜けた時、雑踏の中で後ろから呼ばれて振り返った。


聞き覚えのある声だとは思ったけど、顔を見る前に相手が誰だかわかってしまうなんて…。


あたしは、この間の早苗の言葉に感化されてしまったのかもしれない。


「やっぱり希咲だ。久しぶり」


その言葉通り、久しぶりに会ったせいか、どんな顔をすればいいのかわからない。


「うん……」


笑顔で近付いて来た凪兄から視線を逸らして、小さく返事をしながら頷いた。