「ここに跡がつくと対角線上に右バッターの泣き所のインコース低目を通過したことになるんです」 水原はポケットから携帯用除菌テッシュを出して、丁寧に手を拭いてから再びドラム缶のところに戻って説明した。 内側にくっきりピンク色がついている。 「おまえいつもここで練習してたのか?」 おれが水原に訊く。 「はい。中学生のときはここで雨が降っている日以外は毎日投げてました」 「毎日?」 「はい」 「いくらなんでも飽きるだろ?」