「ナイスピッチング」 ベンチに引き上げ、水原はみんなに頭やお尻を叩かれる。 そういえば、おれが在籍していた3年間で初回を0点に抑えたのは初だ。 こんなにも晴れやかな気持ちになれるとは思っていなかった。 普通ならベンチ前で監督からひと声あっておれが気合いをかけ、円陣を解くのだが、松永先生は孫が遊んでいる姿を傍らで見守っているおじいちゃんのようにただじっとこちらに細い目尻を向けているだけ。 選手の自主性に任せるほど、うちら野球部はたくましくはないのだが……。