加瀬にマウンドを荒らされ、踏み込む足に微妙な狂いが生じた可能性もあるし、他に……。
「水原、グラブでプレートの上を掃くのを忘れるなよ」
おれの一言で水原は「あっ」と声を上げた。
ロージンは丁寧につけた水原だが、マウンドはスパイクの爪先で軽くならしただけで、プレートについている土を払っていなかった。
いつもの過剰ともいえる儀式を忘れるくらい、水原は浮き足立っている。
ゴリとの共同作業でマウンドを念入りにならしたあと、水原がグローブでプレートの上をきれいに掃く。
まるで自分の部屋の掃除が終わったみたいに、水原は晴れ晴れとした表情になる。



