「キャプテン!」 ライトの原西が大声でおれを振り向かせ、グラブである方向を示す。 その先には水原がいて、青ざめた顔でおれを見詰めている。 救いを求めている表情だった。 おれはこのとき、重大な過ちに気づいた。 ピッチャーはそのときの精神状態で勇気が出る励ましがほしかったり、技術的なことを助言してほしかったりする複雑な生き物なのだ。 春季大会のときの原西も、いまの水原も頭の中は真っ白で、気づいたときには追い詰められていたに違いない。 たった一人で立ち直れるほど、野球は甘くないんだ。