十九歳の時



−−初めて人を殺した。






『敵を前に逃げ出すのか…役立たず共め。』


俺の安易な一言で、その場の空気が凍った。


『…何だと?』


旗本の連中が、俺を睨み付ける。


『分かったような口を利きおって…早く謝れ!』


『…生憎、腑抜けに謝る言葉は持ち合わせていない。』


『貴様…!』


『どうした…小僧相手にも斬りかかれぬのか。』


『…ッ!!』


旗本の一人が、刀を抜いて俺に向けた。



『…黙って聞いておれば勝手な事を…斬り捨ててくれるわ!』


そう言うと同時に、刀を振るう。







…---遅い。






『ぐおっッ…!!!』



旗本の刀が届くよりも先に、俺の刀が相手の身体を切り裂いた。




---生々しい、感触。




刀は簡単に血で染まった。




…想像していたよりも、ずっとあっけない。




『うわぁぁぁあ!!』



周りで見ていた輩が叫び声を上げて、倒れた相手に駆け寄る。


『…お前、何て事をしてくれたんだ…!』


痛い程突き刺さる、冷たい視線。


『…もう、顔を見せるな!』


かつて無い程の憎悪が向けられる。


刀を鞘に収めると、俺は其の侭部屋を後にした。







…もう、此処へは戻れない。