「お兄ちゃん!」 あの日から 歌音は俺をそう呼ぶようになった。 もちろん二人きりの時だけだが。 「私が泣いたら、いつもキャンディをくれたね。 そして泣き止むまで背中をさすってくれるの」 歌音は忘れていた記憶を取り戻したかのように、昔の話をし始めた。 正直、俺は困惑している。 俺は歌音との『今』を生きている。 過去に囚われたくはない。