幸太郎はソワソワしていた。

所轄から、異例の大抜擢。警視庁捜査一課初出勤の日である。

世間を騒がせた連続幼児誘拐事件の解決は、イケメン刑事をマスコミはヒーローに仕立て上げた。

不祥事続きの警視庁上層部は、彼を起用することでイメージ向上を目指したのだ。

もちろん幸太郎の活躍無しには解決出来なかった事件ではあるが、その活躍は偶然の産物であった。

「押忍。河辺幸太郎巡査部長頑張ります。」

警視庁を見上げ、気合を入れた。

「おはよう。気合十分ね。」

急の声に振り返ると温かな微笑みが彼を見ていた。

「おっおはようございます。河辺幸太郎巡査部長です。今日から捜査一課配属となりましたっ。」

あまりの大声に周囲のざわめきを誘った。しかし、微笑みの主は動じずにいた。

「知っているわよ。犯人投げ飛ばして、全治3ヶ月の重傷にしたヒーロー君。」

そう連続幼児誘拐事件の犯人、野添修治は今まだ警察病院のベッドの上である。

「いや、あれは不可抗力と言うか…勢いあまってと言うか…」

しどろもどろに答える幸太郎の口を遮って。

「ここは庁舎内ではないのよ。相手が誰か分からず何でも答えるべきではないわ。気をつけなさい。」

ふと微笑みは消え、目の前を通り過ぎた。

「知っています。広瀬恵理警部。」

幸太郎のその声に、恵理は驚いて立ち止まった。

「アメリカハーバード大学で犯罪心理学を学び、帰国後キャリア合格、警視庁に、

その後再度渡米し二年間FBIで研修、プロファイリングを習得し帰国、犯罪心理捜査官として捜査一課に配属…」

「もういいわ。随分詳しいのね。」

幸太郎の声を遮る様に恵理が言った。

「お互いの事知っている様だから、コンビ組むのは問題ないようね。」

恵理はそう言うと、足早に庁内へ入っていった。

「コンビ?へっ僕と?」

突然の返答に呆然と立ち尽くす幸太郎だった。