「こんばんは~」

 「いらっしゃい。今日は雪だるまじゃないね」

 「満天の星空ですからね。


 そこまで満天の星なら、埋もれる程に星が落ちてきたらいいのに。

 藍子は、そう想っていた。

 笹部は店に運ぶ客たちにとって弟分のように慕われている。

 此処の客人たちの年齢層の平均オジサマという事もあるのだが。


 「玉子と大根お願いします」

 「無理なさらなくていいんよ」

 「僕、藍子さんの笑顔の為ならムリだってしますよ(笑)」


 冗談と分かっているから、それ以上の突っ込みはしないのである。 

 あの日、テツの大声を出す仕切りにより二人の事は一気に店の中の連中に知れ渡った。

 みんなのアイドルである藍子に恋人ができるのは、辛く悲しい時もある。

 しかし、女将でもある彼女は来店する者たちにも今までと変わりなく気配りをする。

 だから、結局は恋路を応援してしまうのだ。

 相手がドブ鼠のようなサマなら文句の一つでも飛ぶのだろうが、誰もが認める王子様タイプ。

 敵わぬなら楽しむべしというというのがモットーなは人たち。

 いやはや、人情とはいいものだ。