オシボリとお茶を出し、おでんの鍋に視線を落とした。

 彼女以外に客は未だいない。


 「お湯割り頂けるかしら」


 以前のような猫撫で声ではない瑠璃に対して少し緊張をする。


 「はいよ」

 「貴女に話があって来たの」

 「何かしら?」

 「貴女、直人とどういう関係?」

 「難しいね……。大切な人さ」

 
 テツに紹介され、互いに好意を寄せているとはいえ付き合っているわけではない。

 今のところ客と女将それ以上のものはない。


 「貴女がハッキリしないから直人は悩んでいるの。貴女、彼と付き合う気ないなら彼を、直人をあたしに頂戴」

 「笹部さんは物じゃないだろう」

 「あたしは、彼のことずっと見てきたわ。同じ会社に入社して彼に少しでも近づけられるように秘書の検定だって受からせたの。なのに……」

 
 言葉を呑み込み唇をギュッと結びだした。


 「どうしたのさ」

 「振り向いてくれないのよ。どうしてだか分かる?」

 「さぁね」


  クツクツクツ

 鍋が煮え立つ音だけが店の中に響き渡る。