「いらっしゃい」

 今日も暖簾を潜って、次から次へと客足が運ばれてくる、小さなおでん屋。

 出迎えてくれたのは、茄子紺色の浴衣に、白い割烹着を着た女将。


 「藍子さん、熱燗ね」

 迷わず空いているカウンター席に座り込んだ、一人の男。


 「はいよ。テツさん、外は寒いかい?」

 「寒いも何も雪だよ」


 どうやら常連客の一人のようだ。


 「どれ、アタイも見に行っちゃおうかしら」

 「藍子さんがカウンターを1分でも離れたら、この店はパンクしちまうよ」

 「まぁ、お上手だ事」


 客と冗談を交わしながら手際よくお酒を温め、おでんの火加減を調節している。


 「姉さん、お任せで適当におでん盛ってくれる?」

 店の奥からほろ酔い加減なのか、顔を赤らめた客の一人。


 「飲み物は足りているかい?」

 「それじゃ、同じものをもう一つ」


 全く商売上手な女将である。


 「あー、この一杯が最高だね。そうそう、今日は藍子さんに土産話を持ってきたんだよ」

 「まぁ、何かしら?」