『なぁ、うち消えんの?』


もう一度呟いた陽菜に、俺はやっぱり何も返せない。


『なぁ、お願い。正直に言ってや』


黙りこむ俺に、壱夜の目が向けられる。


けれど言えるわけがない。もうこいつの悲しむ顔は見たくない。


―――何より、俺が一番怖いんや。


『日向のアホ。もういいよ…』


ぽつり、落とされた言葉。


全てを諦めるようなその声色に、陽菜の顔を見ることが出来ない。


振り返り、ドアから離れる彼女の涙すら拭えないなんて。


『…ばいばい』


けれど陽菜のその言葉に、ハッとして顔を上げた。


あの日と重なる光景。


俺のもとから離れた彼女は、その寂しげな背中を最期に帰って来ることはなかった。


あの日もっと陽菜を見ていれば、ちゃんとあの手を離さずにいたら。


―――数え切れない後悔が、俺の身体を突き動かす。