言い終わると、ほんの少しだけ目尻に涙がたまっていた。
壱夜に向かって微笑むと、彼も同じく優しい笑顔を浮かべる。
『ごめん、やっぱ今日は帰ろかな』
「え?でも最近は日向の家にいるんだろ?」
『うん。…でも、たまには自分の家にも帰らなな』
口元に笑みを浮かべながら瞼を伏せると、あたしの頭をゆっくりと撫でる。
その手が優しすぎて、ほんとに触れられてるのかさえ分からなくなる。
『ごめん、帰るな』
「……あぁ」
くるりと振り返りドアに向かうと、視界の端に日向がうつる。
苦しくて苦しくて、息が詰まる。
落とした救急箱は怖くて拾うことが出来なかった。
―――「陽菜はやっぱり、そう言うと思ったよ」
閉じてゆく扉の隙間、そんな壱夜の声が聞こえた気がした。

