そこにいつもの柔らかい笑顔はなく、本気で困ってるようだ。
それもそう。彼の両手に目をやると、今からボクシングでもするのかと突っ込みたくなる。
『う、うん!どういたしまして』
早めに手を引いておいた方が良さそうなその状況に、あたしも苦笑いを返した。
『ほんま、ごめんやでイチ』
そう言って彼の口の端に絆創膏を貼ると、あたしの腕を掴み、「だから…」と口にする。
けれどその先の言葉を悟ったあたしは、
『うん、わかってる。ありがとう』
そう、彼の心配そうな顔に笑顔を向ける。
『……イチ、ありがとう』
もう一度言葉にすると、彼は悲しみを残した笑顔であたしの頭を撫で、「あぁ」と呟いた。
―――もしかしたら壱夜はすべて分かっていたのかもしれない。