声も出さずただ涙を流すだけのあたしに、壱夜の軽い溜息が聞こえる。


…あぁ、ほら。面倒臭いって思わせちゃった。


そう瞬時に悟ったあたしに、ゆっくりと影が近づく。


ダルそうに廊下に浮かびだされた影が、目の前で止まった。


「…んなことねぇ」


だけど頭上から聞こえた声色はとても優しくて…


『え?』


思わず顔を上げたあたしに、


「あいつにとって、陽菜は特別なんだよ」


―――壱夜の、少し悔しそうな声が届いた。