―5年後―



勇が俺を拾ってから“5年”の歳月は流れた。


勇の家。


勇はいつも俺が寝る前に、色々な“童話”を話してくれた。


そして、俺自身も、その勇が話してくれる“童話”が大好きだった。


この日も、夕食を食べ終わり、俺は布団に潜りながら、いつもの様に、勇に“童話”を聞かせてくれる様にねだった。


『ねぇ、オサムさん、今日はどんな話しを聞かせてくれるの?』


俺がそう尋ねると、勇は仕方なく話し始めてくれた。

『わぁーったよ話してやっから、聞いたらちゃんと寝ろよ』


『うん』


俺がニッコリ笑いながら答えた。


勇は普段は、余り笑わず、その頃の俺からしてみれば、四六時中“不機嫌な顔”をしている風に見えた。


でも、俺がニッコリ笑う時だけは、勇も“少し”笑ってくれていた気がした。


勇は、晩酌の酒を飲みかけのままちゃぶ台に置き、俺が寝ている隣に、肘を床に付けて、顎を手の平に乗せて横に成りながら、“童話”を語りだした。



『じゃあ今日はお箸の話しだ』


『オハシ?』


俺がそう尋ねても、何も無かったかの様に話しを進める勇。



『昔の何処かの国の話しなんだけど、その国には、“自己中”の奴らばっかり住んでたんだ。』


勇の話しを聞きながら、疑問に思って、話しの途中で、勇に質問した。


『ねぇ、“ジコチュー”ってな〜に?』


すると勇は渋々俺の質問に答えた。


『“自己中”ってのは、“自分中心”に物事を考えてる奴の事だ。』


その勇の答えも虚しく、俺は更に勇に質問をした。


『“自分中心”って?』


俺のその問いに、またもや渋々答えた勇。


『“自分中心”ってのはだなぁ…簡単に言えば、“自分の事”しか頭に無ぇ奴の考え方だ。』


『分かったか?…』


今度は勇が俺に尋ねた。


俺も、やっと理解出来たのでその勇の問いに答えた。

『うん分かった』


『じゃあ続きを話すぞ?』

俺は軽く首を縦に振った。